首都圏のマンション在庫増加、その実態は?
「首都圏で中古マンションの在庫が増えている」という報道を目にする機会が増え、少し不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。確かに、統計データを見ると、首都圏全体の中古マンション在庫は増加傾向にあります。しかし、この数字の裏側には、エリアや価格帯、マンションのタイプによって異なる実情が隠されています。
今回のマンションリサーチ株式会社の調査(2022年1月~2026年6月の東京都中古マンション96,416事例を対象)によると、首都圏全体の在庫増加は、埼玉県、千葉県、神奈川県といった周辺3県ではむしろ在庫が減少傾向にあることが分かりました。つまり、現在の在庫増加は、東京都、特に都心部に集中して起きている現象なのです。
都心5区とそれ以外のエリアで異なる市場の動き
東京都内でも、市場の動きは一様ではありません。今回は、特に都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)と、それ以外の東京都23区に分けて、市場の「流動性」(不動産がどれだけスムーズに売買されるか)と「価格」の変化を見ていきましょう。
都心5区では「値下げしても売れるまで時間がかかる」
都心5区では、中古マンションが成約するまでの「値下げ率」(当初の売り出し価格から、最終的に契約が成立した価格までの値下げ幅の割合)が大きくなっています。つまり、売主さんが価格を下げなければ成約しにくい状況が増えているということです。
さらに注目すべきは、値下げ率が上昇しているにもかかわらず、「販売日数」(売りに出されてから契約が成立するまでの期間)も増加している点です。通常、価格を下げれば買い手が増えて販売期間は短くなると考えられますが、都心5区では価格を調整しても売却までの時間が長くなっています。
これは、単に「値下げすれば売れる」という市場から、「価格を下げても買い手との価格の目線が合いにくい」市場へと変化している可能性を示しています。都心5区には1億円、2億円を超えるような高額物件も多く、住宅ローン金利の上昇による影響だけでなく、富裕層の方々の投資判断や資産の配分の変化も、価格形成に影響していると考えられます。

都心5区以外では「値下げによって流動性を維持」
一方、東京都23区から都心5区を除いたエリアでは、少し異なる動きが見られます。こちらも値下げ率は上昇傾向にありますが、都心5区と大きく違うのは、値下げを行うことで販売日数が比較的維持されている点です。
このエリアは、実際に住むことを目的とする「実需層」の割合が高く、住宅ローンを利用して購入する世帯も多くなります。そのため、住宅ローン金利の上昇によって購入可能な価格水準が下がれば、買い手はより厳しい価格目線を持つようになります。その結果、売主側が価格を調整することで成約に至るという構造が生まれていると考えられます。

成約価格についても見てみましょう。都心5区を除く23区では、直近の平均成約価格が概ね6,400万円前後で推移しており、この価格水準でバランスしているように見えます。これは、住宅ローン金利が上昇する中で、すでに一定の価格調整が織り込まれている可能性を示しています。

対照的に、都心5区では価格のばらつきが大きく、全体として価格が減少方向に動いている傾向が見られます。これは、都心部の高額物件については、まだ市場が新しい価格水準を探している段階にあることを示唆しているかもしれません。

在庫増加の主役は「高額・大規模・タワーマンション」
今回の調査では、売出価格8,000万円以上のシンボリックなマンションについて、個別の在庫推移も分析されています。その結果、東京都心部、特に千代田区、中央区、港区では、在庫が増加傾向にあるマンションが多く分布していることが分かりました。

そして、在庫が増加しているマンションには明確な共通点があります。それは「高額な大規模マンションやタワーマンション」が多いということです。都心部には数百戸、時には1,000戸を超えるような大規模なマンションが多く存在します。こうしたマンションで売出在庫が数十戸増加するだけでも、市場全体の在庫数を大きく押し上げることになります。つまり、都心部の高額・大規模・タワーマンションの流動性低下が、東京都全体、さらには首都圏全体の在庫統計に大きな影響を与えているのです。
これからマンション購入を検討する方へ
今回の調査結果を踏まえると、「首都圏全体で中古マンションが売れなくなった」と一括りに考えるのは早計です。実際には、埼玉県、千葉県、神奈川県では在庫が減っており、東京都内でも都心5区を除けば、価格調整をしながらも一定の売買が成立しています。
今、まさに起きているのは、市場全体の崩壊ではなく、都心の高額・大規模・タワーマンションを中心とした「超局所的な流動性低下」です。そして、この局所的な変化が、供給戸数の多いマンション群に集中しているために、統計上は首都圏全体の在庫増加として表れていると考えられます。
これからマンション購入を検討する皆さんは、首都圏全体の平均値だけを見るのではなく、「どのエリアで在庫が増えているのか」「どの価格帯なのか」「どのようなマンションタイプなのか」「値下げによって売れているのか、それとも値下げしても販売期間が長期化しているのか」といった、より細かな市場分析をすることが大切です。
特に、住宅ローン金利が上昇している現在、購入者の予算が変化し、高額物件ほど買い手層が限定される傾向にあります。同じ東京都内であっても、マンションごとの流動性には大きな差が生まれていることを理解し、ご自身のライフスタイルや予算に合った住まいを賢く見つけてくださいね。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社 データ事業開発室 不動産データ分析責任者
福嶋総研 代表研究員
福嶋総研 公式ページ: https://mansionresearch.co.jp/fri/
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