AIが変える住まい選びの未来
「住まいを選び直す自由」をテーマに、PropTech-Labの清水 千弘所長が考察するコラムの第6回では、AIが住宅市場に与える影響について深く掘り下げています。
2100年の春、ある家族の朝の風景を想像してみましょう。AIが家族の住み心地スコアを算出し、夫の在宅勤務頻度の増加に伴うワーキングスペースの最適化余地を提案。さらに、子どもの進学に合わせて最適な住み替えオプションを3件に絞り込み、引っ越し費用やローンの組み換え、子どもの転校先の評判、夫の通勤時間の変化までシミュレーションしてくれます。最終的な判断は家族が下しますが、その判断を支える情報は完璧に整っている、そんな未来がきっと訪れるでしょう。
これまでの住まい選びは、希望条件を整理し、物件サイトで検索し、内見し、比較し、決断するという、情報を集めて判断する責任がすべて消費者にあった「探す」行為でした。
しかし、AIの進化により、この行為は「探す」から「導かれる」へと変化しつつあります。すでに、物件価値を瞬時に推定するサービスや、ライフスタイルに合った物件をレコメンドするサービスが登場し始めています。AIの本質は、物件価値、信用リスク、将来の地域価値、修繕必要時期、住まいに対する満足度といった、あらゆる「予測コスト」を劇的に下げることにあります。予測がほぼ無料になった時、人間が担うのは「判断」の部分だけになります。AIは、人間がより良い判断をするための材料を完璧に整える役割を果たすのです。
予測・判断・責任の新しい分担
AIが住まい選びにどう関わるかを理解するために、「予測」「判断」「責任」という三層構造で考えてみましょう。

予測:AIが担う情報分析
AIが得意とするのは、物件価格、修繕時期、信用リスク、災害リスク、地域価値の将来予測などです。膨大なデータから、ある条件下で何が起こるかを確率的に示します。ここで大切なのは、予測の精度はAIの賢さだけでなく、データ環境の充実度によって決まるという点です。例えば、日本でAI査定の精度が米国よりも低い傾向があるのは、AIが劣っているわけではなく、取引データの蓄積や公開、住宅履歴の標準化といったデータインフラが、米国に比べてまだ発展途上だからだと考えられます。
判断:人間が下す価値観の選択
予測を踏まえて、最終的に「この家を選ぶ」「いくらまで出す」「いつ住み替える」といった決断をするのは私たち人間です。住まい選びは、仕事と家族、経済性と思い出、合理性と感情といった複数の価値観の間でトレードオフ(どちらかを選べば、もう一方を諦めること)を引き受けることでもあります。AIが予測のコストを下げれば下げるほど、自分が何を大切にしているかを見極め、判断する力の価値はさらに高まるでしょう。
責任:社会制度が支える信頼
AIの助言に基づいて住宅を選んだ結果、例えば自動価格査定モデル(AVM:Automatic Valuation Model、AIがビッグデータを用いて不動産の価格を自動で推定するモデル)が示した価格で売買して後に値崩れした場合や、AIレコメンドで選んだ物件で隣人トラブルに巻き込まれた場合など、誰が責任を負うのかという問題が生じます。AIは責任を引き受けるものではなく、宅建業法、消費者保護法、データ保護法といった社会制度が責任の所在を明確にすることが、AI時代の住宅市場の信頼基盤になります。
つまり、AIは人間の選択肢を狭めるのではなく、選択肢を「見える化」し、判断の質を高め、責任の分担を可能にする社会制度の上で機能するものです。AIは、私たちの自由を奪うのではなく、むしろ拡張する手段として設計されなければならないのです。
AIの可能性とデータの重要性
AIは、データが豊富な領域(取引が活発な市場など)では高い精度を発揮しますが、データが少ない領域(地方や特殊な物件など)では精度が落ちる傾向があります。AIの精度向上は、AI自体の改良だけでなく、市場の透明化、取引データの開放、住宅履歴の標準化といった制度的な取り組みに大きく依存します。AIは、データ環境という社会インフラの上に乗って機能していると言えるでしょう。
これからの住まい選びと新しい暮らしに向けて
AIの進化によって「家は一生もの」という常識が崩れゆく中、私たちはこれまで以上に自由に住まいを選び、人生の転機に合わせて柔軟に住まいを変えられるようになるでしょう。住まい選びがもっと身近で、もっと自分らしいものになる未来はもうすぐそこかもしれません。
この新しい住まい選びの形について、さらに深く掘り下げた情報は、プロパティ・テクノロジーズの公式サイトでご覧いただけます。ぜひ、AIが変える住まい選びの七つの次元について解説されているコラム本編をご確認ください。
PropTech-Labについて

『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』は、不動産市場に新たな価値をもたらし、人々が住まいを選ぶ際の新しい基準や簡便さ、価値観を醸成・提供することを目指しています。市場のニーズに応え、価格高騰の抑制に努め、より多くの人々が質の高い住宅を手に入れられるよう活動しています。
『PropTech-Lab』所長 清水 千弘氏について

一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任し、2024年7月より『PropTech-Lab』所長に就任しました。
株式会社property technologiesについて
株式会社property technologiesは、「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」をミッションに掲げ、年間36,000件超の不動産価格査定実績やグループ累計約15,000戸の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、「リアル(住まい)×テクノロジー」で、誰もが「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えられる未来を目指し、手軽で利便性の高い不動産取引を提供しています。